Cherreads

Chapter 17 - エピソード5:雪の中の笑み

絆のかけら(前編)夜は静まり返っていた.嵐が始まって以来初めて,笑い声が吹雪を切り裂いた.ぎこちなく不器用なハナエの笑い声が,静寂に鮮やかに響いた.ループとイシュンは視線を交わした.奇妙で,ほとんど気まずそうな視線だったが,先程の戦いの重みは,何か新しいものへと和らぎ,脆いものへと変わっていた.まだ名付ける勇気のない何かへと.三人は崩れ落ちた中庭に立ち,肩には雪が積もり,息は寒さの中で雲のように立ち込めていた.「行こう」ハナエはよろめきながらも,決意に輝く瞳で言った.「一緒に.世界は私たちのことを気にかけない.だから...だから,私たちはお互いを気遣う.そうでしょう?」イシュンは腕を組み,息を吐き出したが,唇にはかすかな同意の色が浮かんでいた.ループは頷きながら喉を締め上げた.かすれた声は優しくも揺るぎなく響いた.「どんなことがあっても,私たちは互いを守り合う」嵐は唸り声を上げたが,二人の小さな温もりの輪の中で,誓いは固く結ばれていた.三人の子供が世界に立ち向かう.三つの悲しみのかけらが,二度と砕けないと誓う.そして――ステップ.音は柔らかだった.嵐の中にあるには柔らかすぎる.しかし,それは刃のように空気を切り裂いた.ステップ.ループは凍りついた.血は冷たく,雪よりも冷たかった.喉は乾き,額には汗が浮かんだ.彼はそのリズム,その響きを知っていた.それは,あの夜の街で以来,彼を悩ませてきたのと同じ音だった.彼らの脆い聖域にいるべきではない人物の足音だった.「準備しろ」ループはしゃがれた声で言った.彼の手は剣の柄を握りしめた. 「来たぞ」一俊は戸惑い,瞬きをした.花江は好奇心から首を傾げた.しかし,二人もその音を聞いた.ステップ.ステップ.人影が現れるよりも先に,あの薄笑いが浮かんだ.雪の中から彼を捉えるよりも早く,鋭く嘲るような唇の湾曲が記憶の中に浮かび上がった.そして,彼はそこにいた.背の高い鬼.中年だが刃のように鋭く,その体は嵐の肉体を宿したかのような存在感でそびえ立っていた.長い白髪は,先端に紅の筋が入り,黒と赤のぼろぼろの着物に揺れていた.どんな刃物よりも鋭く長い角が,微かな光にきらめいていた.腰には四本の刀が――左右に二本ずつ――静かに鞘に納められていた.その静寂を破るのは,彼の目だけだった.片方はかすかな燃えさしのように輝き,もう片方は燃えるように輝き,その下には永遠の傷のように傷跡が刻まれていた.彼はほんの数メートル手前で立ち止まった.足音は嵐の中,まだこだましていた.まるで雪が彼の存在を飲み込むのを恐れているかのように.「まあまあ」と彼は言った.滑らかで,ほとんど戯れるような声で.「子供をそんなに遅くまで外に出させるべきじゃない.危ないんだぞ.」彼の口調は嘲り,偽りの温かさを滲ませ,溺愛する老人の仮面を被っていた.彼は首を傾げ,心配そうに見せかけた.「夜は若い肉を味わいたがる獣だらけだ.お前は...」「演技をやめろ.」ループの声は途切れ途切れで,生々しくも毅然としていた.彼は剣を半分抜き,角を霜で輝かせながら前に出た.「最初に見抜いたぞ.お前は我々のことを気にかけていない.誰のためにもなれない.それが私にはわかる.」鬼のニヤニヤとした笑みが消えた.一瞬,彼の目の残り火がかすんだ.すると,それは再び現れた.以前よりも大きく,鋭く,冷笑へと歪んだ.「ああ?」彼の声は低く,遊び心は消えた.「子供は一体何を見ているんだ?」「誰かに『警告』するためにここにいるんじゃないってことか」ループは息をするたびに胃が上下しながら言った.「血が欲しいからここにいるんだ」その言葉の後,沈黙は耐え難いものだった.嵐さえも一瞬静まった.それから,冷笑はさらに広がった.彼は腰に手を伸ばし,二本の剣の柄を掴んだ.滑らかな動きで,彼はそれらを抜いた.ルビーのような金属で鍛えられた,暗赤色の双剣が,かすかな月光を捉え,それを不浄なものへと歪めていた.「君の言う通りだ」鬼は傷だらけの目を細めて呟いた. 「私はここに休息しに来た.君たちの背後にある遺跡を楽しむために.だが,君たち... 君たちは私の気分を悪くした.そして,気分が悪くなると...」彼は前に進み出た.声は唸り声に変わった.「...血は私を再び甘くしてくれるんだ」嵐は彼に応え,狂乱へと燃え上がった.サンダルが雪に踏み込み,足音は太鼓のように響き渡った.そして,息よりも速く,彼は突撃した.世界がぼやけた.ある瞬間,彼は中庭を横切っていた.次の瞬間,彼は彼らの前に立ち,剣を十字に振り下ろした.一瞬にして肉と骨を切り裂こうとしていた.ルプの体が思考よりも早く動いた.彼の剣が振り上げられ,鋼鉄がルビーに軋み,火花が散った.その衝撃は彼の手から刃を引きちぎり,骨を砕きそうになったが,彼は歯を食いしばり,額に汗と雪が混ざり合いながら耐えた.「一俊! ハナエ!」震える声で,彼は叫んだ.「動け!」一俊は短剣をひらめかせ,着物をはためかせながら左へ駆け出した.花江は雪につまずきそうになりながらよろめき,震える両手で刀を抜き,弓を激しく振り回した.鬼のニヤニヤとした笑みはますます深まり,その緊張は高まった.容赦ない力.「剣を持つ子供たち.実に奇妙だ.」ひねりを加え,ループのガードを破り,再び振り下ろした.刃はループの顔面をかすめ,髪を一本切り落とすほどの鋭さだった.彼はよろめきながら後ずさりし,燃え盛る瞳の燃えさしに角がきらめいた.恐怖が肋骨を掻きむしった.しかし,その恐怖の奥には,もっと強い何かがあった.決意.ついさっき誓ったのだ.一俊を守るため.花江を守るため.二人の脆い絆を世界から守るため.もしそれがこの怪物に立ち向かうことを意味するなら,そうするしかない.彼は再び剣を振り上げ,嵐を切り裂くような声で言った.「逃げない.血を求めるなら...まずは我々全員を切り裂かなければならない.」鬼はかすかな笑い声を上げた.低く恐ろしいその笑い声は,雷鳴のように遺跡に響き渡った.その薄笑いはどんな刃よりも鋭く輝いていた.「わかったな,小さな角笛.お前の悲しみが私の飢えに匹敵するか,見せてやろうじゃないか.」そして,もう一歩踏み出すと,地面そのものが砕け散ったように見えた.嵐はまだ始まったばかりだった.嵐の中の紅の刃(後編)嵐は夜空を掻きむしり,唸り声を上げる風が世界を白く呑み込んだ.雪片は短剣のように舞い,息を吐くたびに空気を切り裂いた.果てしない雪のカーテンの中,三人の子供たちが立っていた.彼らの脆い誓いは崩れかけ,目の前にいる怪物――傷と影に覆われた鬼――が,ルビーで鍛えられた双剣を抜く.剣が姿を現すと,地面さえも震えた.真紅の輝きが嵐に反射し,雪を血の燃えさしに変えた.冷酷な笑みを浮かべた人物は,風雨にさらされた顔に深く刻まれ,長い角がかすかな光にきらめいていた.片目は赤い怒りに燃え上がり,その下の傷跡は彼の表情をまるで人間離れした何かへと歪めていた.「震えているな」と彼は言った.声は豊かで滑らかだが,毒に満ちていた.「よかった.倒れる前に震える方がましだ」ルプ・リパは剣を握りしめた.息が腹の中で荒くなり,汗が目にしみ込んだが,構えは揺るがなかった.彼の背後では,イシュンが滑るようにして立ちはだかった.短剣がかすかに輝き,左腕はまるで自らの肉体に縛られているかのように緊張していた.花江は震えた.紫の着物が嵐に揺れ,背中の弓は震え,紫の着物に覆われた手は刀を強く握りしめていた.彼らは子供だった.それでも,彼に立ち向かっていた.鬼は前に出た.ステップ.ステップ.それぞれの音が嵐よりも大きく響き,まるで戦いの太鼓のようだった.そして,何の前触れもなく,彼は突進した.世界がぼやけた.彼が一瞬で距離を越えると,彼のサンダルの下で雪が爆発した.彼の剣は凶暴な弧を描いて振り下ろされ,深紅の光の川が二筋,三人の子供を一撃で切り裂こうとしていた.ルプの本能が悲鳴を上げた.彼は身を焦がし,絶望に燃えた.刃が振り上げられ,最初の剣と激突した.衝撃は骨を震わせ,手首を折りそうになった.火花が散り,鋼とルビーの間で激しく踊った.一俊は二本目の刃を捉えようと,短剣を閃かせて飛び込んだ.激突で雪の上を滑るように後ろに転がり,膝が崩れ落ちたが,彼は踏ん張った.歯を食いしばり,目には反抗の炎が燃えていた.花江は慌てて動こうとしてつまずき,危うく倒れそうになった.深紅の光が彼女の顔を切り裂き,カールした髪が一筋流れ落ちて切れるほどの至近距離を走った.彼女は息を呑んだが,足取りは安定し,剣は手の中で震えていた.鬼は喉の奥で低く笑い,刀を捻り出した.「悪くない.全く悪くない.だが,聞け――」彼の笑みは牙のように鋭く広がった.「――嵐に飲み込まれるまで,どれだけ耐えられる?」彼は再び,前よりも速く刀を振り下ろした.子供たちは散り散りになった.ループは雪の上を転がり,飛び上がって反撃の剣を振り下ろした.一俊は狼のように旋回し,隙を探して横に飛び出した.花江はためらい,それから駆け込んだ.サンダルが滑ったが,魂が彼女を前に引っ張った.鋼鉄が幾度となくぶつかり合った.中庭は嵐の中に嵐が渦巻くようだった.刃と刃が軋み合い,火花が星のように雪を照らした.一撃ごとに子供たちの体が震え,骨が砕け,意志が試された.ルプは受け流しながら叫んだ.かすれた声で.「誓っただろう――お互いを守ろうと!今それを破るな!」一俊は唸り声をあげ,短剣で斬撃をかわした.「ここで死ぬつもりはない,角小僧!」花江はまたもやつまずきそうになったが,刃が真紅の鋼鉄に擦れると同時に,笑い声で我に返った.「わ,私が先に自分の足につまずいて死ぬかもしれない!」彼女の笑い声は恐怖に変わり,しかしそれは絶望を切り裂く奇妙な輝きを帯びていた.鬼は目を細​​め,ニヤリとした笑みがほんの少し揺らいだ.「よくも笑えたな?俺の前で?」声は低く,唸り声は嵐を震わせた.彼はさらに強く突き上げ,一撃はより重く,より速く,その一つ一つが,彼らの脆い誓いを純粋な力で打ち砕こうとした.ルプの腕は痛み,筋肉は悲鳴を上げたが,彼の心の奥底で何かが痛みよりも明るく燃え上がった.かつて自分を軽蔑していたものの,いつしか息子と呼ぶようになった父の記憶が,彼の脳裏を駆け巡った.その悲しみ,その喪失が,彼の技に焼き付いていた.「巻勝の技だ」と彼は囁いた.角は霜で光っていた.「角を持つ者の悲しみだ」彼は身をよじった.彼の刃は力だけでなく,研ぎ澄まされた悲しみで空を切り裂いた.その一撃は予期せぬ形でねじれ,嵐そのもののように歪んだ.ルプの剣が彼の深紅の刃を擦り,鬼の目がかすかに見開かれ,息継ぎの間バランスを崩した.「今だ!」ルプは咆哮した.一俊はためらわなかった.彼は突進し,短剣を閃かせ,鬼の脇腹を斬った.刃は厚い着物を辛うじて貫き,かすかな血の筋を走らせただけだったが,鬼はよろめき,ニヤニヤとした笑みを浮かべた.花江は好機と見た.彼女は草履を滑らせ,刀を高く掲げ,ぎこちなく突進した.渾身の力を込めて振り下ろしたその声は,勇気と恐怖が入り混じった叫び声となった.鬼は間一髪で身をよじり,刃は深くは刺さずに腕をかすめた.しかし,彼女の勇気の閃光は,一撃そのものよりも大きく響き渡った.鬼は凍りつき,輝く目を細め,ニヤニヤとした笑みは鋭くなった.脇腹と腕から雪の上に血が滴り落ちた.低く残酷な含み笑いが再び聞こえた.「歯の生えた子供か」と彼は呟いた.感嘆し,面白がっているようにも聞こえた.そして声は暗くなり,嵐よりも冷たくなった.「でも,歯は折れるんだ」彼は再び前に踏み出した.今度はより速く,ルプのルビーの刃は目で追えないほど速く弧を描いてヒューヒューと音を立てた.ルプはかろうじて一撃を防いだ.剣は手の中でガタガタと音を立て,骨が張り裂けそうになった.一俊は二撃目を受け止めようと飛びかかったが,衝撃で雪の上に投げ出され,息が肺から裂けそうになった.ハナエは悲鳴をあげ,衝撃波に押し流されてよろめきながら後ずさりした.鬼は彼らの頭上にそびえ立ち,その影が彼らの小さな体を覆い隠した.彼のニヤリとした笑みが再び広がり,口角に血が滲んだ.「これは面白いな.お前たちの絆がどれだけ長く続くか見てみようじゃないか.」ルプはよろめきながら膝をついた.肋骨がうねり,涙がまつ毛に凍りついた.しかし,剣の握りは緩まなかった.彼は再び剣を掲げ,声は震えながらも炎に満ちていた.「骨を折ることも,血を流すことも,どんなに苦しくても,私たちの絆を壊すことは絶対にできない」一俊は短剣をしっかりと握りしめ,彼の傍らに這い寄った.かすれた声で.「彼が倒れたら,私も倒れる.彼女が倒れたら,私も倒れる.それが私たちの絆だ」花江は頬を紅潮させながら,震える笑い声をあげながら,慌てて立ち上がった.「またつまずくかもしれないけど,君の隣に立っていたらつまずくわ!」鬼のニヤニヤとした笑みが凍りつき,燃えるような目が細くなった.初めて,何かもっと冷たいものが彼の顔にちらりと浮かんだ.恐怖でも,怒りでもない.もっと深い何か.認識した.彼は一度後ずさりし,笑い声は雪の中で消えた.そして再び身を乗り出した.刃からは血と霜が滴り,ニヤニヤとした笑みはかつてないほど鋭くなった.「わかった.血が出るまで,君の絆を試させてくれ」嵐はさらに激しく轟き,世界を飲み込んだ.戦いはまだ始まったばかりだった...

More Chapters